中学三年生の悠人は、高校受験を控えている。優秀な兄・直人や、家族を置いて家を出ていった父親、悠人でなく直人に大きな期待をかける母親、といった家族のなかで、自分の存在意義を見出せない悠人は、日課にしていたランニングの途中、公園のブランコに座る少女・朱音と出会う。どこか影のある表情の朱音に、次第に惹かれていく悠人。朱音が、病気の母親の介護や幼い妹の世話、家事をひとりで背負う“ヤングケアラー”であることを知った悠人は、彼女の力になりたいと考えるようになるが……
【読書メモ】
◯読者対象は中学生以上向き
○「誰かを大切に思うこと、社会へ目をむける機会」を読者に提供する児童文学
◯主人公中学生たちの淡い恋の話。恋愛物語として読めるのはもちろんだが、通して読んでいるとヤングケアラーの問題をどこかに意識してしまう。主人公の女子は、母親が自宅療養しており、妹の世話をしながら、家事をこなしている。母親の描写はあるが、登場はしてこない。悠人と朱音、二人とも家族との関係性に葛藤しているあたりの描写を、同世代の子どもたちに読んでもらいたいです。
◯中・高校生くらいの男女の、恋してるのかな? そうじゃないのかな? という関係性の微妙な距離感の描き方が、著者の特徴だと思います。「好き好き」オーラ満載の恋愛ものも読んでいて楽しいですが、著者のような表現は、登場人物が相手のことを思いやるように、読み手にも想像力を働かせることを促す文章なのではと、作品を読んでいて感じますし、そう読むことによって自分も作者の世界に入り込んでいることを、ふと実感しています。
【そのほか】
◯第67回青少年読書感想文全国コンクール課題図書(中学校の部)
◯NHK首都圏ナビのサイトで著者のインタビューがサイトアップされています