人がつくった川・荒川

 

【内容紹介】

首都圏をつらぬき、現在は流域に約1000万人が住む荒川は、江戸時代から実は人の手で流れを変えられてきた。たび重なる洪水から人々を守り、流域の暮らしと江戸の繁栄に大きな役割を果たしている。

本書は、荒川の歴史と流域の暮らしの変化を中心に、河川の基本的な知識に触れつつ、地球温暖化が原因とされる近年の大規模な水害をどう防ぐかまで、荒川の過去・現在・未来を一望する一冊。

【読書メモ】

河川をテーマにした本は、図書館向けの学習セットものでたまに見かけるけれど、読み物として子ども向けにまとめられたものは少なかったと思います。

江戸という、日本史上有数の大都市との関わりがあり、大きく分けて産業振興のための利水と防災対策の治水の側面からまとめられています。「大囲堤」や「水塚」など流域の水害対策の歴史や、交通・運搬手段として川が重要視されていたことなど、荒川に限らず河川と人との関わりを強く感じることができます。

利水によって産業や生活が豊かになる一方で、治水のために被災せざるを得ない人々が出てきたり、バランスをとりながら荒川が変化してきた視点も持っています。

大正13年に始まった荒川放水路の建設は、パナマ運河建設に携わった青山士(あおやま・あきら)の経験が生かされたことや、戦後の経済成長にともなう鉄道、自動車の普及により、荒川の整備は防災対策を重視したものにシフトしていきます。

新小岩の住民による自主的な防災の取り組みも紹介。防災には、実はその土地の成り立ちや歩みを理解することの重要性が述べられています。

花火大会が中止になるほど、隅田川が汚染された高度経済成長期のくだりは、自分が子どものころにあった「ドブ川」が気がつくと、フタをされて暗渠や下水になって、忘れ去られていることに気が付きます。

われわれが暮らす、街の成り立ちや特徴、あり方を考えるうえで、影響を受けた自然や地理の視点もあることに気付かされる一冊。タイトルから、関東以外の人たちには関係ない本ではなく、類書があまり見当たらない本なので、自分の街の河川、身近な水路・暗渠、小川に目を向けて、元の地形の成り立ちから、それがどのように変化しているかなどと考えたり、それこそ自由研究のテーマ元の一冊になる本、だと思います。

【その他】

第69回(2023年度)青少年読書感想文コンクール課題図書(中学校の部)