りりかさんのぬいぐるみ診療所

 

ぬいぐるみの修理をとおして、その持ち主のさまざまな気持ちを、癒したり、勇気づけたりする物語です。修理の仕上げに施される植物の魔法とその花言葉が、持ち主のぬいぐるみへの思いをすくいあげ、優しい気持ちになれる読後感を持ちました。

ぬいぐるみの修理の描写は、拘りを感じさせるほど細かく、破れやほつれのお直しだけでなく、中綿の交換や全体の洗濯など、新たに知ることが多かったです。

【内容】

シリーズ3冊目。4話収録。今回は、ぬいぐるみの持ち主に成人が多いので、大人が読んでも遜色ない内容でした。ぬいぐるみの壊れ方から、息子の本心を知ることになる母親、気が進まないままに買ったぬいぐるみを手放したことで自分の本心に気付く女性、遺品となったぬいぐるみから亡き妻のメッセージを見つけた老人など、いずれも、りりかさんの巧みな診療と不思議な花の魔法で心温まるお話になっています。子どもたちに心の機微を伝える作品です。

【読書メモ】

◯診療所が森の奥にあるので、森の描写が印象的。全体的に木漏れ日のさす、明るさを感じながら読み進められるのが、シリーズ通しての印象。逆に迷い込んだ時の孤独感を呼び出す、不安な雰囲気や真っ暗な闇の森の表現も読んでみたい。

◯1話目のペガサスのぬいぐるみの話はシリーズの中でも幻想的。

◯各話、魔法で使われる花の、花言葉の意味がテーマになっています。

 

 

 

ぐうたら魔女ホーライ来る!

 

【内容】

ある日、魔女のホーライが別世界からサヤの町にやって来る。行方不明になった姫を探しにきたという。魔法がヘタなうえに食いしんぼうで、すぐになまけるホーライを見かねて、サヤは同級生いちぼんらの力を借りて、姫の探索に奮闘する。「魔女が相棒シリーズ」のサヤとホーライの迷コンビが再び活躍する一冊。

【読書メモ】

◯ホーライのアバウトさが、サヤをしっかりものにさせるのは、舞台が人間世界でも変わらない。前のシリーズを読んでいなくても、同級生のいちぼんへの事情説明でこれまでの経緯が大体わかるようになっています。

◯ホーライをどう見るかは読み方によりますが、こういう大人がいたらヤダなとか、ウチのお母さんやおばさんってこんなんだよなとか、を思いつつ主人公・サヤと自分を重ねあわせながら読んでしまいます。挿絵で描かれるホーライも、「魔女が相棒!?」シリーズの1作目に比べると、あきらかにミステリアスさ具合が減ってきて、魔女というより、作中に登場する中華料理店のおばさんがホーライなんじゃないかと錯覚してしまいそうです。

◯あまりにも人間くさい、ホーライの怠惰さは憎めないものです。意外と自分の身近にこういう人や自分の中のこういう側面を見つけてみるのも面白いかも。しかし物語で魔法を駆使して、というよりは、不完全な魔法をツールとして工夫して問題解決に使おうという、サヤたち人間の健気さを感じずにはいられません。

◯意外にも同級生の「いちぼん」が、姫探しに一役買っていて活躍したり、サヤもラストで大きな決断をしたりして、子どもたちの自立が描かれる点で好感をもちました。

 

5番レーン

 

【あらすじ】

小6女子の主人公カン・ナルは、水泳部のエースだが、タイムが伸びなくなり、急に速くなったライバルに勝てず悩んでいた。ライバルの水着が、競技で承認されていないモデルではないかと疑い、思いがけずトラブルに発展してしまう。家族や水泳部の仲間との関わり、水泳への想いが交錯し、小学校最後の夏の大きく成長する姿を描いた青春物語。

【読書メモ】

◯小学校高学年以上向き。主人公は小学校6年生、女子。

◯水泳に限らず、最近のスポーツを題材にした作品は、結果を出せる、出せないことの心理描写がシビアで厳しく感じます。現実のスポーツ競技の厳しい世界の反映だと思います。リアルな描写が、先が読める展開ではないところに、競技へのあこがれを払拭した、普遍的な子どもたちの成長物語として読めます。

◯なぜ競泳を続けるのか、主人公が自分に問いかけ、答えを求める過程は読みごたえがあります。

◯結果がすべての世界ということをわかってか、子どもたちは、明るく、前向きであろうと描かれている点が救いのような気がします。競泳をあきらめて飛込競技に転向した主人公の姉や、子どもたちの恋愛模様など、様々なものの見方を読者が感じ取ることができそうです。

◯主人公が引き起こしたトラブルは、ラストの大会シーンまで引きずっていきますが、ライバルの態度から、勝敗より大事なことが勝負に対するこだわりとして表現されている気がします。結果の良し悪しでなく、結果を作ることで負けた自分も受け入れられるようになった主人公の成長が印象的で、そのためラストに描かれる勝敗はあっさりしていると感じました。

◯体育会系の活動をしている子どもたちには、夏は練習で忙しい日々だ思うけれど、夏の読書がぴったりな一冊なので、読んでほしいです。

【その他】

2023年度青少年読書感想文コンクール課題図書・小学校高学年の部

韓国の文学トンネ児童文学賞大賞

タガヤセ!日本

 

【内容】

若き官僚YouTuberとして多くのメディアにも登場する著者が、最新の農業から、実はスゴい日本の農作物の「国産の裏側にある驚きのストーリー」を紹介し、さらには日本の農業の未来までを語る1冊。

【読書メモ】

◯農業と聞いて思い浮かべる画は、田植え、手で直に植える様子だけれど、それははるか昔のステレオタイプにすぎない。ほとんどの農家が田植え機を使い、ほかのほとんどの工程もコンバインやドローンで機械化されているという。

促成栽培二毛作など授業で習ったワードがでてきますが、日本という国土を有効に活用した農法だったということがわかりやすく説明されています。YouTuberらしいメリハリのきいた解説は文章にも表れていて、読んでいてひきこまれます。

SNS発信を行い、新たな販路を開拓したり、「スマート農業」を駆使して東京ドーム12個分の畑を一人で管理したりする、最先端の農家さんが紹介されています。

◯日本の農業のすごい点、おもしろい点、が紹介され、あまりここで書いてしまうとネタバレになりそうな意外性のあることが多く取り上げられ、豆知識や雑学物としても読めます。

◯食料自給率や食品ロスなど、「食」を巡る日本が抱える課題にも言及し、我々が日常口にする食べ物がどこから来ているのか、食べることは単なる栄養補給ではないことを常に意識し続けていくことの必要性を真面目に語っています。

農水省の仕事紹介もあり、特にYouTubeチャンネル「BAZZ MAFF」の立ち上げの裏話や情報発信に心掛けていることが本書の内容に反映されているので、堅苦しくなく真面目に伝えることに苦心されている人は、勇気づけられるかも。

【その他】

第69回(2023年度)青少年読書感想文コンクール・高校の部課題図書

人がつくった川・荒川

 

【内容紹介】

首都圏をつらぬき、現在は流域に約1000万人が住む荒川は、江戸時代から実は人の手で流れを変えられてきた。たび重なる洪水から人々を守り、流域の暮らしと江戸の繁栄に大きな役割を果たしている。

本書は、荒川の歴史と流域の暮らしの変化を中心に、河川の基本的な知識に触れつつ、地球温暖化が原因とされる近年の大規模な水害をどう防ぐかまで、荒川の過去・現在・未来を一望する一冊。

【読書メモ】

河川をテーマにした本は、図書館向けの学習セットものでたまに見かけるけれど、読み物として子ども向けにまとめられたものは少なかったと思います。

江戸という、日本史上有数の大都市との関わりがあり、大きく分けて産業振興のための利水と防災対策の治水の側面からまとめられています。「大囲堤」や「水塚」など流域の水害対策の歴史や、交通・運搬手段として川が重要視されていたことなど、荒川に限らず河川と人との関わりを強く感じることができます。

利水によって産業や生活が豊かになる一方で、治水のために被災せざるを得ない人々が出てきたり、バランスをとりながら荒川が変化してきた視点も持っています。

大正13年に始まった荒川放水路の建設は、パナマ運河建設に携わった青山士(あおやま・あきら)の経験が生かされたことや、戦後の経済成長にともなう鉄道、自動車の普及により、荒川の整備は防災対策を重視したものにシフトしていきます。

新小岩の住民による自主的な防災の取り組みも紹介。防災には、実はその土地の成り立ちや歩みを理解することの重要性が述べられています。

花火大会が中止になるほど、隅田川が汚染された高度経済成長期のくだりは、自分が子どものころにあった「ドブ川」が気がつくと、フタをされて暗渠や下水になって、忘れ去られていることに気が付きます。

われわれが暮らす、街の成り立ちや特徴、あり方を考えるうえで、影響を受けた自然や地理の視点もあることに気付かされる一冊。タイトルから、関東以外の人たちには関係ない本ではなく、類書があまり見当たらない本なので、自分の街の河川、身近な水路・暗渠、小川に目を向けて、元の地形の成り立ちから、それがどのように変化しているかなどと考えたり、それこそ自由研究のテーマ元の一冊になる本、だと思います。

【その他】

第69回(2023年度)青少年読書感想文コンクール課題図書(中学校の部)

不思議屋敷の転校生

 

【内容】

優乃たち4人の仲間は小学校中学年。天文クラブでの天体観測に最適な場所を探しているうちに、転校生の玲子と近づいていく。いつも一人でいて、外の世界のことを知らない玲子に驚きながらも仲良くなっていくが…

【読書メモ】

ミステリアスな書き出しや、秘密を抱えた玲子がクラスで明るくなっていく様子、5人の距離が次第に狭まっていく描写、天体観測で描かれる星空の美しさなど、ラストに繋がっていく伏線が、読み手に人物の感情を考えさせ、情景の美しさを味わわせたりする話になっています。もちろんタイムパラドクスを絡めた物語設定も考えさせます。

【その他】

第34回(2022年度)読書感想画中央コンクール指定図書

 

 

よるのあいだに・・・

 

【あらすじ】

女の子のお母さんは深夜バスの運転手。女の子がパジャマに着替えるころに出勤します。夜に働く人たちは、お母さんだけではありません。誰もいないビルを掃除するサミーさん、必要があれば昼夜問わず出動する警察官のハッサンさんとアミーナさん、夜にバンドでサックスを演奏するレムさん、24時間営業のスーパーを経営するイーバさんなど、ほかに深夜の配送、パン屋さん、鉄道線路の工事現場、救命士さん、助産師さん、もいます。女の子が寝ている間も、くらしを支える仕事と人々に想像を膨らませる翻訳絵本。

【読書メモ】

◯もとは英語の絵本で、深夜の仕事を紹介しているお話ともとれますが、どういった職業と人々が夜の仕事で社会のインフラを支えているかと紹介する絵本。

◯自分の生活を支える仕事が、母親が夜働いていることによって、自分が活動する昼間だけでなく、夜も行われていることに気づき、様々な職業とそれに従事する人たちに想像を膨らませていく内容で、お話を進行させていきます。

◯読者である子どもたちにとっては、自分の身の回りの夜の仕事や、家族が従事している場合はそこに想いをめぐらし、家族との会話のきっかけにもなりそうです。

◯夜の街の様子が、夜のトーンながらも「街のあかり」をカラフルに表現しています。また、前ページをうけた次ページの描写に遊び部分があり、絵探し的な要素もあります。

【その他】

第69回青少年読書感想文全国コンクール課題図書(小学校低学年の部)