シリアで猫を救う

 

【あらすじ】※講談社のHPより

シリアの商業都市アレッポに生まれ、電気技師として働いていたアラー・アルジャリールさんは、内戦が激化するなか、負傷者や市街地に取り残された猫の救出活動を開始します。その活動は、報道をつうじて世界中の人たちに知られるようになります。
そしてFacebookでつながった人たちからの支援を受けて、「サンクチュアリ」と呼ばれる猫の保護施設をつくり、空爆で傷ついた猫たちを保護していきます。
自らの危険もかえりみず、人間やどうぶつたちの命を必死に守るアラーさんの活動をつうじて、シリア内戦の悲惨な現実、戦争の愚かさを訴えかけます--。

【読書メモ】

21世紀最大の内戦と言われ、生き地獄と形容されたシリア内戦。爆撃にさらされるアレッポ市街で、負傷者の救護と並行して、猫や動物等を救い続けた「アレッポのキャットマン」ことアラー。彼の活動をとおして内戦の現実を伝えるノンフィクション。

 彼の活動は国内外の人々の知られるところとなり、特に国外の人々がシリアの惨状に目を向けるきっかけとなったそうです。フェイスブック等を通じ、国外からさまざまな支援を得て、困窮する人と動物を助ける「サンクチュアリ」の創設につながっていきます。

 アラーは、2010年の開戦から2018年の停戦まで、シリア国内に留まって、救護活動を続けています。本書は、国内に留まる彼の目から見た内戦の様子がまとめられています。爆撃で吹き飛ぶ市民や仲間たち。政府軍や反体制派、武装組織が入り乱れる戦場。本書の刊行時点(2020年8月)では、アラーはまだ国内に残っていたそうです。シリアの惨状が、市民目線の生の声で語られる内容は貴重な記録と言えます。

【そのほか】

◯全国学図書館協議会「第54回夏休みの本(緑陰図書)」(高等学校の部)選定

 

 

with you ウィズ・ユー

 

with you (くもんの児童文学)

with you (くもんの児童文学)

 

【あらすじ】※くもん出版HPより

中学三年生の悠人は、高校受験を控えている。優秀な兄・直人や、家族を置いて家を出ていった父親、悠人でなく直人に大きな期待をかける母親、といった家族のなかで、自分の存在意義を見出せない悠人は、日課にしていたランニングの途中、公園のブランコに座る少女・朱音と出会う。どこか影のある表情の朱音に、次第に惹かれていく悠人。朱音が、病気の母親の介護や幼い妹の世話、家事をひとりで背負う“ヤングケアラー”であることを知った悠人は、彼女の力になりたいと考えるようになるが……
【読書メモ】

◯読者対象は中学生以上向き

○「誰かを大切に思うこと、社会へ目をむける機会」を読者に提供する児童文学

◯主人公中学生たちの淡い恋の話。恋愛物語として読めるのはもちろんだが、通して読んでいるとヤングケアラーの問題をどこかに意識してしまう。主人公の女子は、母親が自宅療養しており、妹の世話をしながら、家事をこなしている。母親の描写はあるが、登場はしてこない。悠人と朱音、二人とも家族との関係性に葛藤しているあたりの描写を、同世代の子どもたちに読んでもらいたいです。

◯中・高校生くらいの男女の、恋してるのかな? そうじゃないのかな? という関係性の微妙な距離感の描き方が、著者の特徴だと思います。「好き好き」オーラ満載の恋愛ものも読んでいて楽しいですが、著者のような表現は、登場人物が相手のことを思いやるように、読み手にも想像力を働かせることを促す文章なのではと、作品を読んでいて感じますし、そう読むことによって自分も作者の世界に入り込んでいることを、ふと実感しています。

【そのほか】

◯第67回青少年読書感想文全国コンクール課題図書(中学校の部)

NHK首都圏ナビのサイトで著者のインタビューがサイトアップされています

www.nhk.or.jp